『女工哀史』(以下、単に「本書」とのみ表記)※1、といっても分らない人の方が多いかもしれませんが、本書は、『あゝ野麦峠』に書かれている様な内容を、文学的にではなく、社会学的、或は。経済学的視野に基づいて表現したものです。
即ち、『あゝ野麦峠』は文学作品ですが、本書は文学作品というよりは社会学や経済学の専門書みたいなものということです。
因みに、私は、本書をブックオフで350円という大枚を叩いて購入しました。
本書を読むと、ブラック企業問題は、つい最近のことではなく、日本の産業近代化の黎明期である明治大正時代から連綿と続く、非常に根深いものであることが、よく分ります。
今も昔も、ブラック企業問題の本質に大差はなく、共通する点が多々あります。
例えば、企業に対し滅私奉公を強いる環境、物質的不足を荒唐無稽な精神主義で補う思想、封建主義的な社内身分制度、無知な労働者を甘言を弄し誑かして働かせるシステム等です。
その根本にあるのが、『伝統的に日本人には「権利」の観念が欠けているということ』※2、です。
権利の観念が欠けていては、ブラック企業と対等に戦うことは出来ず、立場が弱い労働者はブラック企業の言いなりになるしかありません。
又、企業側にしても、権利の観念が欠けていては、労働者を、あたかも部品の様に扱う非人道的な労働条件の改善をすることは不可能です。
それ故、その様な悪習を断ち切る為には、日本人全体が正しい権利意識を持つ必要があります。
兎角、昨今は、高収入が得られる職業(横文字職業、ホワイトカラー的な職業、華やかな職業等)が持て囃される一方、低収入の職業(ブルーカラー的な職業、地味な職業等)が蔑まれる風潮があります。
しかし、私は、この様な風潮は誤っている気がします。
尤も、ワーキングプアである私が言っても、単なる貧乏人の僻みにしか聞こえないかもしれませんが、低収入の職業には、今日の社会を支える縁の下の力持ち的な職業が非常に沢山、有るからです。
この様な職業に従事する人達が居るからこそ、私達は快適な社会生活を送ることが出来るのではないでしょうか?
最後に、本書の『道学者は「職業に貴賎なし」と言ったが、私に言わすればとんでもないことで職業には大いに貴賎がある。政治家だとか学者だとかいっている連中は実に賎業である。そうして肥料くみや溝掃除こそ彼らに増してこそ貴い職業ではないか?』※3、という部分には、大いに共感を覚えました。
※1.細井和喜蔵『女工哀史』1983年、岩波書店、P21引用
※2.川島武宣『日本人の法意識』2008年、岩波書店、P15引用
※3.前掲※1、P21引用